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新しいプランを考える

jyanshi: 
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[player]撫子さんが準備してくれたことを台無しにしてはいけない。今からオーナーさんに連絡して、山腹に用意したサプライズ用の小道具を出来るだけ麓に移動しよう。みんな、なんとか頑張って……! グループトークにメッセージを送信した後、撫子さんと一緒に食べ物を取りに行っている間にも、バレないために具体的にどうしたらいいか相談を続けた。 一時間後、私たちはキャンプ場に到着した。元のプランだと、出迎えたオーナーさんは私たちを山腹キャンプ場へ誘導するのだが、うまく行ったのならここは…… [キャンプ場のオーナー]いらっしゃい、撫子さん。キャンプ場にご案内します。 [撫子]ありがとうございます。 主人はそう言いながら、こっそり私にウインクしてくれた。 どうやらオーナーさんにはちゃんと連絡が届いたようだ。サプライズ用の小道具もちゃんと移動出来ていれば、無事に成功出来そうだけど……。 撫子さんと協力しながら、数人が入りそうなくらい大きなテントを組み立てた。その後、撫子さんは私と雑談しつつ、食材を並べ始めた。三人がめいめいに遅れる旨メッセージを送ったようだが、撫子さんは特に怪しいとは思っていないようだ。 その後、私の方にもメッセージが来た。 [藤田佳奈]雑談はそのくらいにして、先輩をちょっと遠くに連れてってー!! ここでずっと隠れてるの結構キツい! 周りを見渡すと、付近の低木の後ろに三人の頭頂部が見えている。その横には、ふわふわと揺れている、今にも浮き上がりそうな風船。 [player]いや別になんでも……! 撫子さんはその方向を見ようとしたが、私はそれを押しとどめた。同時に、低木の後ろで誰かが風船を引っ込めた。 [撫子]……あっちがどうした? 撫子さんは私の手を振りほどいてそっちを見に行ったが、そこにはもう何もなかった。 [player]ホントニナンデモナイヨ? そうだ、ちょっと小腹空いてない? どうせみんな遅れて来るんだし、一緒におやつでも買ってこようよ。 [撫子]あたしは別に減ってないな。つまめるもんならテントの中にあるよ。 [player]あ~喉も乾いてきた、飲み物でも買いに……。 言い終わる前に撫子さんがすっとペットボトルを渡してきた。どうしようと思って受け取れずにいると、撫子さんは「やれやれ」といった表情で蓋を開け、また私に突き出した。 [player]ありがとう。……ねえ、撫子さん? みんなが来る前に、ちょっとだけ散歩でもしない? 料理の準備にはまだ早いし。 [撫子]準備出来ることは全部済ませてから行きたいんだ。ハプニングが起きたら対処が大変だからね。 [player]そ、そうだよね……あはは。 もう、万事休すか……と思いきや、撫子さんは手を止めて私に声をかけた。 [撫子]やっぱり行くか。 [player]? [撫子]三度目の正直だ、あんたの希望通り、その辺を散歩しよう。 [player]うん、行こう行こう! 撫子さんと並んで山道を歩き、キャンプ場付近の景色を堪能していると、すっかり遠くまで来ていたことに気付いた。しかし撫子さんは全く帰る様子を見せない。 ブーと、新着メッセージの通知でスマホが振動した。 撫子さんが景色に夢中になっている隙に、私はメッセージを確認した。 「準備完了!」 [player]撫子さん、結構遠くまで来ちゃったし、そろそろ帰らない? [撫子]そうだね。彩音達もそろそろじゃないか? さすがにもう着いてると思うけど。 [player]遅刻は仕方ないよ……みんなそれぞれの理由があるんだし。 [撫子]二十分か……この時間でどんな風に仕上げたのか、楽しみだねぇ? [player]突貫工事だしそこは大目に見てく……え? つい口を滑らせた後で、やっちまったと気づいた。 [撫子]やっぱりそうだったんだね。あの木の後ろに三人はさすがに無理があるんじゃないか? [player]くっ、不覚……。 [撫子]今年はあんたまで巻き込んだのに、結局あたしの勝ちじゃないか。ま、負けたあんたには、言う事を聞いてもらうよ。 順調だと思ってたのに、最後の最後で撫子さんにバレてしまい、心が折れそうだ。私は両手を上げ、降参の意を示した。 [player]負けを認めるよ。それで、言う事って、どんな? 十五分後、私は慌てたフリをしながらテントに入った。計画をまた変更する必要があると、嘘の新プランを三人に伝え、テントから出るように誘導した。そして、テントのファスナーが再び開かれたその時……。 パーン! 撫子さんはクラッカーを手に持って、きらめく紙吹雪の中で驚く三人を勝利者の姿勢で見下ろしている。 [撫子]今年「も」、あたしの勝ちだ。来年また頑張ってくれ、三人とも。 [友人達]PLAYER! 裏切ったなー! [player]すまない、これも敗北者の定めなのだ……。 日が沈み、キャンプ場はぽつぽつと灯った焚き火の明かりに彩られた。 サプライズチャレンジは失敗したけど、パーティー自体は大成功。私たちのプランを聞いて、撫子さんは杜撰なプランと私たちの激軽フットワークに総ツッコミをした。 私たちの失敗を笑いながらも、彼女は一人で料理を仕上げ、カクテルまで作ってくれた。おかげで山の中で素敵なディナーを堪能出来た。 [player]じゃあ、おやすみなさい。 全員にお休みを告げたあと、私も自分のテントに戻ろうとしたら、腕を掴まれた。 [player]撫子さん? 先ほど自分のテントに帰った撫子さんがまた出てきていた。 [撫子]しーっ、みんな寝てるよ? ……う~……。佳奈も、千穂理も朝から大変だったんだもん、起こしちゃだぁめ……♪ ね、ダーリン? [player]だー!? ゴホッゴホ、撫子さん、流石に酔いすぎじゃ……? それに撫子さん、さっきあの二人は嘘が下手だって笑ってたでしょ? 焚き火の炎に照らされた撫子さんは、顔は赤いだけで表情自体はいつも通りのクールさだ。その実どれだけ泥酔しているのかは彼女のみぞ知る。 [撫子]酔ってないもん。ほら来て。 [player]? スマホのライトが誰もいない部屋を照らしだし、わずかな明かりによって壁に貼られた「ハッピーバースデー」のバルーンや地面に散乱した装飾品が確認出来る。 私と撫子さんは、山腹キャンプ場の一番ランクが高いテントにいる。三十分前、泥酔した撫子さんは私の手を引っ張りながら、麓からここまで登ってきた。 [player]ゆっくり歩いて、部屋の中とは言え、ちゃんと足元見てないと危ないから…… [撫子]はーい……きゃっ! [player]ッ!! 千鳥足の撫子さんは何かに躓き、私の方に倒れて来た。 カランコロン。 周りの何かが倒れた音のあと、部屋の真ん中に置かれている小さなランプが灯った。柔らかい光で辺り一帯がようやく見えるようになり、そして目の前の撫子さんの顔もはっきりと見えるようになった。 [撫子]ふぅ……。 [player]撫子さん、大丈夫? [撫子]ふーん……。これがダーリンたちが頑張って飾ってくれたパーティー部屋かー。うーん……。使わなかったの、もったいなかったな……。 [player]今回は結構時間が無かったから。今度こそ、本当のサプライズをしてあげる。 [撫子]そんなチャンス、絶対、ぜ~ったいあげないんだからな、ダーリン。 [player]……。 そして、撫子さんはプレゼント包装用の、赤いリボンを手に取った。 [撫子]ん、うで。 [player]え? [撫子]なーに、ゆーこときけないの? 酔ってるくせに、だいぶ上からだな……と思いながら、腕を伸ばした。すると、少しヒヤッとする感触と共に、撫子さんはそのリボンを私の腕に巻きつけた。 [player]これは……。 [撫子]めじるしつけてる。 [player]何の? [撫子]リボンをつけとけば、プレゼントだってぜったいわかるもん……これで、次のサプライズの時もわかるはずだから、あたしはー……ぜったい、まけないー……。 撫子さんはそのリボンで私の腕に蝶結びを作った。不格好だったけど、撫子さんは満足気に笑った。 [撫子]きれー……あたしこれすき……。 と言って、彼女は意識を手放した。私が支えなかったら、そのまま倒れ込んで怪我する所だった。 [player]撫子さん? [撫子]……う、ん~……。 撫子さんは私の腕の中で熟睡している。温かい吐息が結ばれたリボンの上にかかり、まるで命を吹き込まれた蝶のようにふわふわとリボンが揺れている。 この日から、撫子さんは私のことを「ダーリン」と呼び始めた。サプライズチャレンジは成功しなかったけど、私たちはもうお互いにサプライズを送り合ったようなものだった。そう、この蝶結びのように、解けそうでいて、絶対に解けない関係性というサプライズを……。